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リードについて

リードについて

本書のエッセイをお願いされた時、リーダーシップとはなんだろう、リーダーとはなんだろうと考えました。きっとリードする人がリーダーですよね。うーん。どうも「リード」自体がよくわかってないようです。

私たちのチームには明示的なリーダーが存在しません。チームをリードする係の人がいないのです。そこで、チームの毎日をふりかえって、リードのようなものがなにかないだろうかと探してみました。

そういえば、メンバーの誰かがチームを変化させることがあります。いつもの 1 日 のちょっとした場面で、チームの安定を壊すような「言いにくいこと」を言うのです。 それは技術的な指摘であったり、ムードの問題であったり、執務環境のことであった り、体調のことであったり、いろいろありますが、どんな発言であってもそれを聞い てチームは新しい状態に変化します。私たちのチームにとって、チームを引っ張ると いうより、チームのバランスをちょっと崩すような、そういうことがリードのように 思えます。

本エッセイでは「リード」とは変化を促す「言いにくいこと」を発言することではないかと仮定してお話を続けます。

水面をゆらして

あなたの開発風景を思い出してください。通常の開発ではゴールと制約条件が示されていて、具体的になにをすればよいかは理詰めで決まります。プログラミングの設計判断の多くは論理的に下されます。テスティングの場合も同様です。昨日までのシステムの出来具合やバグの傾向などからやるべきことが見えてきます。みなさんはも う自分の仕事が上手になっていますよね。大抵の開発は、一度経験した開発のバリ エーションの 1 つのように感じられると思います。

  • 解くべき問題が提示されている
  • 解くための作業もわかっている
  • (しかもそれは得意な作業だ!)

多くの時間、こういう「わかりやすいやるべきこと」をこなしています。やるべき得意なことのある安心感でチームは穏やかな平衡状態に入っています。活発に熱中しているけれど、まるで波のない静かな水面のように見えます。

こういうとき、私はなぜだか不安になります。みんなの感度が鈍っている、あるいは気づいてもスルーしてしまっていることがあるのです。

例えば、やるべきことに集中している間、さまざまな異変に気がついたり、疑問が湧いたりします。

「あれ? あの設計はおかしいんじゃないかな」

「手触り変わった。描画が少し遅い」

「〇〇さん、休憩してないなー」

「なんかイラっとした」

「疲れた」

また、理屈で決められないどちらでもいいことについてもモヤモヤします。

「インデントは 3 タブかなあ」

「メソッド呼び出しの括弧は......」

「この 2 つのチケットどちらからやろう」

「ああ誰か決めてくれないかな」

これらはあなたの頭の中に生まれますが、実際に言葉として発せられるものは多くありません。

「勘違いかも」

「めんどくさいな」

「変なこと言ってないかな」

さまざな理由で話すのを躊躇してしまいます。気づいたことやどちらでもいいこと を発言するためには、論理的に導かれるようなことを話すのに比べて少し余計にエネ ルギーが必要なのです。チームの静かな水面の下で小さな泡が湧いています。でもせっかくの泡は隠れたままになってしまいます。 あなたが「言いにくいな」と思ったことは、実は別のメンバーも気になっています。あなたが疑問を声にしてくれるのを待っています。もしもその疑問が的外れだったとしても、得るものがたくさんあります。間違いやすい部分がどこなのかについてチームの理解が深まります。きっと同じように勘違いしていたメンバーがいるはずですから、その人も救われます。どちらでもいいことを「これにしようよ」と言うのも勇気がいりますね。あなたの選んだ選択肢がどうであっても、その発言はチームを動かします。チームはいままで手をつけようとしなかった問題を、ついに決めることになるのです。

言いにくいな、と思ったときこそ発言しましょう。あなたもメンバーの発言を聴きましょう。チームはきっと新たなゴールと制約条件を見つけ、いつものように活動を再開するでしょう。

もしも、こういった発言がなかったらどうなるでしょうか。言いやすいことを話 し、疑問を議題にしなければ、チームはいつも平穏です。昨日と同じ今日がきて問題 がゆっくりチームを侵し、気がつくと(もし気がつければですけど)ぼやっと大失敗 してしまうのではないかと思うのです。

もしあなたがリーダーなら

チームのみんながリードするスタイルには次のようなメリットがあります。

  • 頻繁に発言がおこる
  • 見つかる問題が多様になる
  • 提起された問題が不適切な場合でも却下しやすい
  • あなたの士気の低下が致命的にならない


あなただけがリードするよりも、チームのメンバーの方がずっと多いので、頻繁に発言がおこります。また視点が増えますから、見つかる問題も多様になります。

発言が的外れかな? と思うようなこともあるかもしれませんが、その確率はあなた一人がリードする場合と大差ありません。リーダーの意見をメンバーが却下するのは大変ですが、メンバー同士ならもうちょっと気軽にできます。なにか勘違いした意見に出会ったら、勘違いする原因がなんであるのか考えてみるのもオススメです。そこに間違えやすくする原因を発見するかもしれません。

あなたの士気が低下した場合、チームはどうなりますか? 全員がリードする係な ら、あなたの士気が低下したとしても、チームの誰かがなんとかしてくれるはずです。

あなたにしかできないことがあります。チームの誰かが発言を躊躇してるのを察知して、さりげなく、わざとらしく、発言を促すことです。そしてその発言を大切に扱うことです。

「えー」

「ほんとに?」

「多数決にする?」

みんなは「言いにくいこと」を言えずにいますが、あなたのちょっとした刺激で、泡が水面に上ってきます。「よい問いを立てる」と言うことがありますが、泡はいま だ「よい問い」に育つ前の芽のようなものです。あなたが「よい問い」に育ててください。

おわりに

本エッセイでは、私たちのチームが変化する様子を観察して、リードの仮定義を試みました。言いにくいことは、言わなければならないから、言いにくいのです。

はあ。言いにくかった。

この記事について

この記事はエラスティックリーダーシップに寄稿したものです。

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